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あいちトリエンナーレ2016を記憶する Vol.12【対談】矢作 勝義さん、黒野 有一郎

ラストを飾る双璧対談

豊橋駅に隣接した芸術文化交流施設であり、あいちトリエンナーレ2016 豊橋会場の玄関「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」の芸術文化プロデューサー矢作勝義さんと、豊橋駅前大通地区まちなみデザイン会議(駅デザ)の事務局代表であり、大豊商店街理事長の黒野有一郎の対談にて、この連載を締めくくらせていただきます!!
黒野 >あいちトリエンナーレ2016の受け入れ方が、水上ビルと穂の国とよはし芸術劇場PLAT(以下プラット)では違うと思うので、その辺りから。
矢作 >プラット自体は、2013年にモバイル・トリエンナーレをやっていたので、拝戸さん清澤さんたちのキュレーターチームとは面識もあり、トリエンナーレ自体に注目していました。その時点でメイン会場にならなかったことは、残念だなと思っていたので、2016年にメイン会場になるという事が決まった時は、非常に嬉しく思いました。

あいちトリエンナーレ2013 モバイル・トリエンナーレ

会期 2013年8月23日(金)24日(土)25日(日)
時間 10:00〜19:00
出展
アーティスト
青木野枝、青野文昭、池田剛介、岡本信治郎、オノ・ヨーコ、國府理、竹田尚史、丹羽良徳、彦坂尚嘉、藤森照信、ヤノベケンジ、山下拓也、横山裕一、渡辺豪
会場 穂の国とよはし芸術劇場PLAT

矢作 >今回、2016年メイン会場になるにあたっては、本当はもっと全体が協力すると思ってたんですよ。もう一歩、突っ込んでイロイロやるものだと思ってたのですが、思いのほか距離をとるような感じになったのと、プラットももう一歩突っ込んでやらざるを得ない状況になるだろうと思っていたわりには、豊橋市が自ら担当する事が多かったと感じました。
黒野 >あんまり踏み込まなかった。
矢作 >踏み込ませなかった。踏み込めば踏み込むほど手を広げなければいけなくなるというところを、あるレベルで押さえるために、文化課(豊橋市役所)が一生懸命やってくれた感じがします。もう一歩突っ込めた筈なんだけどな、と思うところはありますね。特に、パフォーミングアーツは。

展示は、展示のプロセスがあるとしても設置してしまえばあとはランニングなので、それ以上何か出来るというのは、それほど多くはないと思うのですが、パフォーミングアーツについては、集客とか当日の運営とか、本当はもっとできたのではないかなと思います。

あいちトリエンナーレ2013 モバイル・トリエンナーレ/穂の国とよはし芸術劇場PLAT

大巻伸嗣さんの光る壺「重力と恩寵」

黒野 >展示の方からいきましょうか。プラットの展示は良かったですよね。
矢作 >プラットの展示は成功したと思います。大巻作品のインパクトが強かったのと、大巻さんがここの空間からインスピレーションを受けたものを用意してくれたのが良かったのだと思う。設置はめちゃめちゃ大変でしたが。
黒野 >光の強さも変えてましたもんね。
矢作 >あれだけ大型なものを施設のオープンスペースに設置する事自体が、初めてでしたし、設置するのに足場を組んだり、ほぼ工事現場みたいな事をしなければいけませんでしたから。
黒野 >床も全部リノリウムを貼ってましたね。
矢作 >安全管理の問題が重要でした。普段から人が集まってくる中でやらなければいけないとか。他のイベントが入ってる中でやらなければいけないなど。
黒野 >工事中にも大きな演目があるという事ですもんね。
矢作 >先方と何度も打ち合わせをして、スケジュールと段取りを確認をしました。美術展の設置は、通常はお客さんがいる前ではやらないですよね。でも、プラットの場合は、人通りのある中で作業しなければいけない。だから、現場監督として、舞台系の人に入ってもらいました。

[T-01]大巻 伸嗣さん作品・設営中

黒野 >解ります。アートが街に出て行く事について、まだ万全の準備はできていないように思います。ケアも充分じゃないところに、取りあえずアートに詳しい人たちが仕切る場面があるから不慣れな部分もある。全員揃ってない。その話を聞くとそう思う。
矢作 >意識がそこまでいってない感じはありますね。昔は演劇でも、作品を作る事、上演する事だけが目標で、その間のプロセスとか、安全とか過労とか、関係なく意識が低い時代がありました。
黒野 >ゲリラ的に公園にテントを張って出ちゃうとかさ、倒れたらどうするんだ?みたいな事は考えてなかった。
矢作 >しかし、演劇などの舞台芸術や劇場では、建築現場の安全基準を参考にして、舞台の中における安全性と基準を取り入れてきた。舞台技術の人は玉掛けの資格を取りに行ったりします。クレーンを使う作業は、建築現場の方が先だし、圧倒的なボリュームがあるから、そちらに習ってやってるんですよね。

注:玉掛け=クレーンなどに物を掛け外しする作業

黒野 >法制化されてますからね。
矢作 >でも、美術展の場合は、展示そのものの考え方が仮設的な所があります。会期が終了すれば撤去してしまいますから。
黒野 >今はまちに出るアート展も佐々木愛さんの作品のように恒久的ではなくて、2ヶ月とかの仮設的なものが多くて、それは舞台の方に近いですね。
矢作 >大巻さんの作品にしても、どうやって設置するか。この建物の中に必要なものは何か。それと同時に大巻さんというアーティストにとって、これをどう見せたいかということのバランスをどうとっていくのか。一番大変だったのは、作品を組み上げるプロセスですね。次は光源の上げ下ろしをどうやり続けるか。2ヶ月間の可動部分の耐久性がどうなるか。
黒野 >動く照明で、コードが繋がっているわけだから、単純に大変ですね。大巻さんの作品はお客さんにとってどうだったのか、間近で見ていらっしゃってどうですか?どんな反応が多いんですかね。

矢作 >凄いインパクトがあったと思います。まず、大きいものに驚くんですよ。それと、光が出てくるからある種の美しさがあると同時に、光にすい寄せられるように、じっと見てしまうパワーがあります。そして、日が暮れて暗くなってくると影が動いてる事に気づいて、ビジュアルとして凄く面白い。壺のなかに世界が吸い込まれていくような感じとか、壺から出てくるような感じとかが、明らかになってくる。とてもインパクトがあったと思いますね。

迷惑してたのは、普段交流スクエアで勉強してる高校生たちですね。眩しいし、なんだよこれ!とか思ってたかな。「会期はいつまでなんですか?」なんて聞いてくるから、楽しみにしてるのかと思ったら、早く終わらないかなと思って聞いてきたようです。

黒野 >22時までやってるプラットに、光る壺が置いてある所は良かったですよ。
矢作 >他の展示が19時までなので、ここも19時まででいいですか?と聞いたら、大巻さんは、閉館までやって欲しい。出来れば24時間やってほしいと言われました。
黒野 >開発ビルが閉館しても、プラットに行けば光ってる壺が見られるよとガイドできて、面白かった。
矢作 >トリエンナーレを狙って来てるというよりも、何だろ?と思って寄ってきた人も多い。ちょっと来たら変なものがあったとか、偶然来ちゃったとか。そんな人たちも夜は多かったと思います。

黒野 >劇場に来た人はどうですか?
矢作 >プラット会場は無料で見られたので、ラッキーと思ったんじゃないですか?皆が喜んでいたと思います。ラーメンズの片桐仁さんは、公演(小林賢太郎の新作コント・カジャラ#1『大人たるもの』)の合間をぬってトリエンナーレ会場を見に行ってました。豊橋に来た人たちで好きな人は、トリエンナーレやってるんだったら、少しでも見に行こうとしてた。直接的にトリエンナーレ来た人じゃなくてもキッカケを作るにはちょうど良かったと思います。
黒野 >それがチーフキュレーターの拝戸さんの意図でしたよね。豊橋会場がバランス良かったねと言われます。基本的に大巻さんの作品は、ビジュアルアイコンになってますよね。
矢作 >そうですね。
黒野 >駅から一番近い、しかもガラス張りのところにアイコンがあって、ちょっと足をのばすと、水上ビルに歩けるゾーンがあって、開発ビルには集約されて積層されたゾーンがある。それは山岸さんのアクソメ図(Vol.6参照)でもよくわかる。そういう意味ではプラットに大巻さんのアイコンになるものを入れて、トリエンナーレをやってるんですとちゃんとアピールできたのは大きい。豊橋会場が好評だった要因だと思う。
矢作 >そういう意味で言うと、外からぱっと見てトリエンナーレだと分かる会場はあまりないんですね。
黒野 >そうだね。愛知芸術文化センターなんて入口もでかいし、他の事もやってるからトリエンナーレここで良かったのかな?ぐらいだった。
矢作 >岡崎も駅を降りてぱっと何かが見えるわけじゃなくて、点在してましたね。プラットはガラス張りという建物の特性も生かせてアイコンが見えてちょうど良かったかな。

あと、思いのほか好評だと思ったのが、ジョアン・モデのネットプロジェクトですね。面白いのかな?ただ結ぶだけなんて、やっていく人いるのかな?と思ってたんだけど、大勢の方が結んで帰っていくんですよ。

ボランティアの人の声がけが効果的だったり、場所的にもちょうど人が接触しやすい場所だったので良かったかな。日本人て何かを結んだりするのが好きなんだなと思いました。おみくじを結ぶとかみたいに。

[T-03]ジョアン・モデさんネットプロジェクト

黒野 >オノ・ヨーコさんのモバイルの時の作品も盛況だったじゃないですか。想いを木に結ぶみたいな。
矢作 >そうですね、結ぶの好きですね。日本人の特性に合ってる。
黒野 >モデの作品は、名古屋と岡崎を見ましたけど、豊橋と岡崎とはぜんぜん違う。岡崎は、密度が濃くてぱんぱんに貼ってあるんですよ。豊橋のはだらんとしてた。市民性が表れてるかな。プラットは場所も良かったですよね。
矢作 >芝生広場が、ああいう使い方も出来るんだなとハッキリしました。ただ、あそこに皆入るじゃないですか、靴底についていた芝生や土で館内が凄い汚れるの。
黒野 >そんなに影響があるんだ。人数も多いですからね。
矢作 >黒いリノリウムを敷いてたからよけい目立つ。靴って汚れてるんだと思いました。館内には外からいろんなものが入ってくるんだと良く解りましたね。
黒野 >ウダム・チャン・グエンさんの作品はどうですか?映像だけですけどね。岡崎はコーナーに映してただけだった。
矢作 >ここは音が館内全体に回るからずっと聞こえてました。
黒野 >大巻さんの上下する感じと音楽がちょっと合うんだよね。
矢作 >ああいう動きと音楽ってシンクロしますからね。
黒野 >あとは裏手通路のコラムプロジェクトですね。
矢作 >置いてあるんだなと、見て回ってはくれましたけど・・・。
黒野 >コラムプロジェクトは全体を通して見ないとコンセプトが明らかにならない。もう少しコラムプロジェクト自体を解説して欲しかったね。ラウラ・リマさんのスケッチがあったりして新鮮だったですけどね。

[T-20]コラムプロジェクト/鳥の歌ーメッセンジャーの系譜学

ダニ・リマさん『Little collection of everything』

黒野 >パフォーマンスについてはどうでしょう?
矢作 >パフォーマンスについては、県と市とプラットが一体で動けなかったというところがあり、なかなか後手後手に回った感はありました。当初は完全に引き受けて、上演するつもりでいましたが。最終的には県側が動いて、われわれは劇場の中だけでサポートする形式になりました。

トリエンナーレそのものが全体として大きなプロジェクトで、その中でパフォーミングアーツとしては10月がメインでした。8月中旬のパフォーミングアーツは少なかった上に、それに加えてダニ・リマの公演は名古屋でもやったから、名古屋に労力や意識が集中してた感じはありました。

豊橋の方は後手後手に回ってました。もっといろいろなコミュニティにアプローチして人を集める事をやれたらよかったですね。ブラジル人コミュニティの人たちが、プラットに足を運ぶ事はまだまだ少ないんです。

黒野 >ダニ・リマの公演は、見に行けなかったんだけどブラジルの方たちは結構来たんですか?
矢作 >ブラジル人コミュニティに是非見に来てくださいとお願いに行って、来て貰いました。日本のこどもたちにも、もっと一緒に見て貰えるとよかったなということろはあります。

日程の時期的な問題とか、アプローチの問題とか。うちも夏休みに開催するには、その前に宣伝して学校などにアプローチしなきゃいけないんだけど、そこまでに情報が出そろわないとか。パフォーミングアーツのような公演を宣伝するためには4ヶ月前にはチラシが出来上がってて、3ヶ月前にはチケットを発売するとか、ロングスパンでいろいろやんなきゃいけないんだけど、アートイベントと組む事によって、なかなか決まらない。出て来ないという状況になるんで、これいったいどうすんですか?みたいな話になってしまう。

プラットが独自にチラシを作ったり、宣伝はしたものの、なかなか到達しなかったところはありました。もったいなかった感じはしますね。

小中学校へのアプローチ

黒野 >拝戸さんとの対談の中で、もっと小中学校への浸透をはかれば良かったのような反省がありましたけど。その辺はどうですか?
矢作 >最初から文化課に提案したんですよ。小中学生は無料なんだから、全員の夏休みの課題にしましょうと言ったんです。トリエンナーレの会場で作品を見て、絵を描くとか日記を書くとか、感想文を書くとか課題を出して、ともかく全小中学生が1回はトリエンナーレを観に行く仕掛けを作ればいいんですよと言ったんですけど。
黒野 >名古屋の小学校とかはそういう動きもあったようです。豊橋市で開催したら、豊橋市と近隣市の人たちだけが出来る事だから、その機会は上手に使うべき。しかも夏休みだし。
矢作 >夏休みだから学校単位で動くのは難しいと思ったから、夏休みの課題とか。学校でまとまって動こうとすると、いろいろ制約が出てくるから、そうじゃない仕組みで考えた方が現実的なんじゃないかと思った。でも、ある種の強制力は発揮させないと。
黒野 >トリエンナーレ側に学校単位ぐらいのエデュケーション担当がいて、案内するとかね。プラットでは学校でのワークショップをやってますよね。あれはまちなかの学校が中心ですか?
矢作 >教育委員会が調整するので、まんべんなくやろうとはしてます。でも手を上げてくれないと行けないので、積極的な先生がいるかいないかで違ってくる。何でも手を上げる校長先生がいる学校の方が実施する機会が多いんです。
黒野 >単純にアクティブって事ですよね。
矢作 >現場の先生は一体これは何だろう?とか思いながら受け入れをせざるを得ない状況。そこは難しい感じもしますけど、そういうもんだろうなと。
黒野 >もうちょっと準備する期間があれば良かったですね。
矢作 >スタートが夏休みなので、6月くらいには仕掛けなきゃいけないんで、そういう意味では今回はスケジュール的に難しかったかな。
黒野 >そうか、今回は最初だったし、難しかったか。
矢作 >次にやるとしたらそういうのをいくつか仕掛けておいて、造パラ(こども造形パラダイス)と旨く絡めるとか、やらないと。

10/15・16 こども造形パラダイス(豊橋公園)

黒野 >トリ部でも最初は造パラと関連を持とうと言ってたけど、既に6月だったから。造パラは内容などが決まっちゃってた。
矢作 >造パラもアニマル・レリジョンが公演をした吉田城趾とか使って、広く参加を募っているので、出来ると思うんですよね。特別支援学校とか、ブラジル人学校とか。制限はあるかもしれないけど、アプローチは出来るんじゃないかと。

それと、障害者アート関連ですね。トリエンナーレだけじゃなくて、パラリンピックがらみでいうと、豊橋には愛知大学准教授の吉野さつきさんがいるのはすごく大きくて、パフォーミングアーツにおける障害者とのかかわり、彼女は様々な経験を持っているので、豊橋の中で何かできないかと思ってます。

スイッチ総研とままごと

黒野 >スイッチ総研とままごとはまちへ出てパフォーマンスをしてくれて、トリ部の斉藤さんはじめ、商店街の人にも好感触だった。水上ビルも賑わったし、商店の人も参加してた。
矢作 >それが狙いなんですよ。豊橋会場は、各会場は近いけど点在していたじゃないですか。なので、そこに人を回遊させる仕掛けを作った方がいいだろうと思ったんです。豊橋の難しいところは、大道芸でもそうなんですけど、ある地点からある地点に移動するパフォーマンスが許可されないんです。高下駄を履いた人は、高下駄のまま会場から会場へ移動できない。一旦降りないといけない。そういう規制がある。ぞろぞろと会場から会場へお客さんを引き連れていくようなパフォーマンスをやりたいなと思ってたんですけど、ちょっとそれは出来ませんでした。

だから、いろんな所でやってますと告知しながら、スイッチのようにいくつか拠点を作って移動していく。ままごとは、引き連れながら近いことをやってましたけど。

黒野 >両方とも特徴的だけど、まちをうまく使ってて良かったですね。
矢作 >いろんなところでやっていて、やれる事がハッキリ解ってたからやったんですけど、ポイントは、一度に鑑賞できる人数が限られているので、どうインパクトを着け、効果を引き出すかが、重要だったりするんですよね。

黒野 >今回のようにトリエンナーレと絡めれば、定点的に作品があって定点的にパフォーマンスの拠点ができたし、豊橋の人じゃない観客も多かったから飛び込み方が様々で面白かった。水上ビルだけで10何カ所もあったことも成功につながったと思う。インパクトがあったね。
矢作 >あれは想定外と言ってましたよ。普通、拠点となる所にお願いして全部がOK出ることはないんですよ。いやぁちょとうちは・・・って人が結構出てくるので、多めにお願いするわけです。そうしたらお思いの外OKが出て、多くなってしまった。
黒野 >それは空き店舗が多いって事だね。
矢作 >人を増やさなければいけないって事で、結構大変だったですよ。でも、あれくらいボリュームあってよかったですね。

豊橋アーティストインレジデンス2016・まちとつくる演劇

黒野 >エキストラの人も大勢いましたね。この引っ込み思案な地元民もこれだけやると盛り上がるなと思ったね。
矢作 >面白いパフォーマンスです。最初に考えたのはままごとの柴さんですよ。それを発展させたのがスイッチ総研の3人組ですね。六本木アートナイトとか、いまや引っ張りだこです。ブレインは少人数、地元の人をうまく巻き込んでいく、その場所場所で内容を考える、ご当地イベント的には非常にやりやすい。
黒野 >当日も朝からすごく練習してたよね。
矢作 >リサーチと練習はしっかりやってますね。キッカケづくりにとても良い。
黒野 >プラットという拠点があって手を伸ばした感じ。プラットで行われている事が外に漏れ出しちゃった、みたいな感じがあるから良かった。

誰でもウエルカムなんですと言い続ける

矢作 >劇場とはとかく閉ざされた空間にみえるものなんです。オープンしてると認識されにくい所。劇場側から、ウチはオープンなんです、誰でもウエルカムなんですと言い続けないと、そう思われないんですよね。学校に行ったりとか、今回のようにまちなかに出て行く、という事を根気よくコツコツと繰り返していって、出て行って楽しんでくれる人を、一回20人でもいいから、100回やって2000人にするんだ、それくらいやらないと劇場が開かれた場所と思ってもらえない。
黒野 >みずのうえに来た人で「プラットはいいですね、開放されていて」と言ってた人がいましたね。自分の所は、古い劇場なので展示とかは出来ない、羨ましいと言ってた。劇場も変わってきてますよね。
矢作 >プラットは、新しい思想を体現してるんですよ。ここ10年間くらいの劇場という場所に求められてる機能を旨く取り込んでコンパクトにした施設なんです。この前の世代の建物だと、解りやすいのはライフポートですよね。
黒野 >ハコですよね。
矢作 >ロビーが狭くて、イベントがあるとみんな外で待っていて、そのまま入って、終わると建物の外に出て帰る。劇場の中に滞留する場所がないんです。
黒野 >その変わり、オオバコで人はしっかり入る。その後、建築家のアプローチが変わってきている。この10年くらいの間に、地域とか地方が見直されていて、震災の影響もあるんだけど、金をかせぐだけじゃないよね、幸せって何?豊かさって何?効率優先だけでなく、シフトを変えていかないとという世の中の動きの中で劇場のあり方や、市民活動のあり方も変わってきた。
矢作 >劇場とは、ある種の無目的性を許されてる空間だと思うんですよね。それである時間、自由にお話をしたりとかお友達といられる空間で、安全であり、お金がかからない。今の社会では、パブリックな空間が少なくなっていて、行き場のない人が集える場所が劇場なんじゃないか。交流するとか、多様な人たちが集うとか、いろいろミックスしてる流れが、プラットのような建築になってきている。ここはいろいろな要因が重なって居心地良くいられる場所になったと思います。
黒野 >まちなかの場所を見つけてる事になるのかなと思う。展示する場所とかスイッチ総研もそうだけど、スペースを見つけてる。ここも場所を見つけたい人が集う。市民の欲望として、お金を使わずに居心地のよい場所を探してるというのが、ここ何年かずっと続いてる。そういうニーズには応えられますよね。

水上ビルで僕らがやってる事も、場所探し、居場所作りかと。展示するという事で場所を探してる。アートは境界を乗り越えていきやすい。劇場とかパフォーミングアーツというと乗り越えやすい。それ以外のことでまちなかのスペースを使わせてくださいといっても、かえって敷居が高くなる。

お金を生むための何かをさせてくれというと当然、家賃をくれと言うし、アートというと良く解らんけど使っていいよと感じになるじゃないですか。結果的に、探した場所をちゃんとみせるんですよ。大巻さんの壺によってプラットのロビーが魅力的に見えたように、場所発見のキッカケになる。ここってこういう事にも使えるんだと発見する。そういう事をやってるんじゃないかなと思って、じゃ、アートじゃなくても出来るでしょ、といった時に、意外と出来る分野がない。音楽は音が出ることを懸念されるけど、アートは置いてあるだけだから能動的にアプローチした人が受け入れるだけだからね。豊かな暮らしのための場所探し。

矢作 >トリエンナーレのいいところは現代アートだから、ある種権威の裏付けが少ないアートだからいいのかなと。壺なんて、なんなんだろうね、でっかいだけだねとか。観る人にとって受け取り方が多様にあるものとして現代アートはマッチングしてた。水上ビルだと、イグナス・クルングレヴィチュス。あのリズム感とかね。
黒野 >ずーっといる人、居ましたもんね。全体の賑わい的にはどう感じましたか?
矢作 >豊橋に初めてきた人が凄く多かったですよね。圧倒的ですよね。国際展の強さだなと。
黒野 >期待はしてたけど、期待以上だった。芸術祭が全国に広がっていて、この手の芸術祭を開催する都市の人を中心に来てたように感じた。それはそれで、ある分野の人だけが来てるとも云えるけども、それでいいような気がしてる。

映画好きな人が映画のコミュニティで繋がるじゃないですか。情報が全ての人に共有されるという事はないから、そういう意味ではアートに関心がある人を中心に来てた。僕はそれで良くて、すごく意味深いなと思う。ほんとうに身近に感じた。芸術祭ウォッチャーから芸術祭関係者、あらゆるところから来てましたよね。劇場としてはどうですか?

矢作 >チケットを売っている場所だったから、豊橋にまず来るというキッカケを作り、認知度はあがったと思いました。こういう事ができる場所なんだなと思った。劇場が現代アートの展示をやれるんだと実質的に示すことができた。当初から出来るとは思っていて、だからモバイル・トリエンナーレをやったり、アクティブなことをやってました。

今回、劇場スタッフにこの種のことに長けてる人材がいたから、展示のことを一緒に考えてやってこれた。いなかったら出来ませんでしたね。彼は、もともとセンスを持っているんですよ。彼がいる事によって、具体的に実現した事も多いかな。

黒野 >何でも手をあげる校長先生と積極的な先生がいたみたいな話に近い。人数的には想定以上でしたか?
矢作 >来るとは思ってましたけど、こんなに来るんだなと。
黒野 >来て欲しい層の人が来てくれて嬉しかった。アートが好きな人たちがまちなかに来ることはあまりないと思ってるので嬉しかった。商店街としても嬉しかった。
矢作 >家族連れも多かったですね。地元の人も子どもが無料だから親が一緒に豊橋会場だけを回るのも多かった。
黒野 >夏休み以降も続いてましたよね。
矢作 >新幹線、名鉄とJR在来線の全部が停まる。イザとなったら日帰りも出来る。これはもう豊橋いけるなと。劇場としても有り難い環境です。鉄道があって駅前にはホテルと飲食店がある。地方都市はこれがなかなか揃わないんですよ。玄関口、入口として有効なんだなとハッキリ思いました。ここから岡崎、名古屋へ抜けていくという人が多かった。劇場へくる俳優やお客さんでも、また来たいですといってくれる人がとても多い。すぐ近くに食べるところがあるし、市電も走ってますし。
黒野 >多くの人が豊橋が良かった、面白かったと言ってくれた。お世辞半分だとしても、面白くなかったという事をあまり聞かないので、それは良かったなと。コーディネーターの人たちが、場所選びをしっかりしてるし、そこにキュレーターが旨く作家を当て込んでて、それは愛知県であり、トリエンナーレ本部の成果なんだと思う。それが、豊橋の駅周辺で旨く噛み合った。

ある程度多層的に見せる役割を開発ビルに持たせ、街を歩かせる仕組みを水上ビルが担い、アイコンとしてのプラットがキチンとある。お互いがお互いを補完しつつ、旨くバランスがとれたなという印象です。それが結局、お腹いっぱい見れたって事と、街をちゃんと歩けたという事の充実感に繋がり評価されたのかなと思う。有難うございました。

矢作 勝義 Masayoshi Yahagi
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 芸術文化プロデューサー
1965年生まれ。東京都世田谷区出身。東京都立大学在学中から演劇活動を開始。1998年4月、世田谷パブリックシアターにて劇場勤務を始める。2012年4月より(公財)豊橋文化振興財団勤務。 2013年4月30日『穂の国とよはし芸術劇場PLAT』開館を経て、2015年4月より芸術文化プロデューサーに就任。
黒野 有一郎 Yuichiro Kurono
トリエンナーレ部会
建築家/sebone実行委員長
1967年愛知県豊橋市生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、野沢正光建築工房を経て、2004年一級建築士事務所建築クロノを設立。同年より始まった都市型アートイベント「sebone」に参加。現在、水上ビルの商店街理事長を務めるほか、駅前デザイン会議「トリエンナーレとよはし部会」を主導するなど、自治体・行政と連携した「アートによるまちづくり」を展開している。
2017年2月[text:S.Hikosaka]

会期は終了しています。記録として掲載しています。





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