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あいちトリエンナーレ2016を記憶する Vol.6 山岸 綾さん

アクソノメトリック版豊橋会場Mapとの出合い

アーキテクト担当の山岸 綾さん。水上ビル、はざまビル、開発ビルの空き室を改修し、展示用スペースとして使えるようにするお仕事。そして、この素敵なマップの作者でもあるのです!

アクソノメトリック版豊橋会場Map、略してアクソメマップ。元は、建築ジャーナリスト中崎隆司氏の『新しい建築の楽しさ』というWeb連載のインタビューの際に作ったものだそうですが、解りやすいし、色合いも素敵でしょ。黒野からこのマップを見せられ、ホームページにも使わせていただこうと即決しました。

「夜なべで手描きしたので(笑)日の目を浴びて嬉しいです!」とすぐに返信があり、やった!そのまま、豊橋駅前大通地区まちなみデザイン会議(駅デザ)内の特設ページ「あいちトリエンナーレ2016豊橋会場」のメインビジュアルとさせていただいたのです。素敵な出合いに感謝!

水上ビルに魅せられて!

Q. >水上ビルが気に入ったそうですが、どこが気に入ったのでしょう?
山岸. >どこが?いや、全て!だって、カッコいいじゃないですか。
Q. >でも年季が入ってるじゃないですか。
山岸. >まず、成り立ちが面白いですよね。水路の上に建てるという発想も。水路の幅で8メートルに規制されてるから、両側ファサードになるという事も起こるワケだし、それが800メートル続いている。

あのくらいの小さな川って、特に街の中では近づくまでは存在が解らなかったりしますよね。都市の中で普通は見えない筈のものが、あのように建物になってる事で流れがそのまま形になって立ち上がって見えてきてるというのが面白い。


2011年冬 photo:小林 春吉

Q. >さすが!建築家さんらしい見方ですね。確かに、川のままならわざわざ行くという事はなくて、商店街になってるからそこにお菓子を買いに行くんですよね。
山岸. >川べりで遊んだりもできるだろうけど、やっぱり横切るものだったものが、ネガとポジが反転したようにじゃないけど、それ自体が「実」になってる。そして、ポイントポイントで見渡せますよね。

PLATや間にある歩道橋から、ずっと先まで続いているのが見えるのは、水上ビルがところどころで折れ曲がっているからですよね。大手ビルが終わるとまた牟呂用水に戻っているし。まっすぐだったらこれほど面白いとは思わないだろうけど、元の水路の流れそのままの曲線だからいいんですよ。

山岸. >まだ正式に会場になると決まってない時に、ひとりで来て、勝手にぶらぶらしてたんです。黒野さんのテキストを読む前でしたね。で、3ブロックに別れてて、この真ん中のところ(大豊ビル群)は全然構成が違うなと思いました。豊橋ビルと大手ビルは共用階段部分があって上の階は片側廊下の団地のような形式になってるじゃないですか。でも大豊ビルにそれが無いって事は、各住戸に階段がある縦割り長屋、つまりメゾネットなのか!と。凄いと思った。

大豊ビルの歴史などは、こちらからご覧ください。

Q. >特に大豊ビルは、3階と4階のところが有りますもんね。
山岸. >そうですよ、4階は後から増築したと聞いて驚きました、凄すぎる。南北に大きなガラス面が連続していて、例えば2階は水廻りも窓に面しているし、3階は和室なのに腰高が低くて、部屋からは遠くの海まで見渡せる。屋上は庭園になっているし。

あの建物が建った高度成長期の「モダンな住宅を作るぞ!」みたいな理念が見えるんです。新しい都市の住まい方を作る、という気概に溢れてる感じがしました。

Q. >山岸さんは3年前に岡崎会場を担当していらっしゃいます。それでは、今回、豊橋会場の担当に決まって嬉しかったですか?
山岸. >はい。というより、自分から豊橋会場を担当したいです!と名乗りをあげました。

水上ビルについて

Q. >建築家さんから見て、豊橋会場はどうでしょう?
山岸. >まず、全部の会場が徒歩で回遊できる距離である事に着目しました。特に水上ビルは、両サイドにアーケードがあり、1階の店舗は北側からも南側からも出入り出来るつくりです。建物の内と、外であるまち並みが近い、まちに直接接続されているような面白さがありますね。商店街の建物を出たり入ったりしながら次の会場へ向かうような流れ。
Q. >ラウラさんの会場は、1階が吹き抜けになっていて、向こう側が見渡せるんですよね。風が気持ち良く通り抜けるところが気に入ったのですが、あれは意図的ですか?
山岸. >そうですね。水上ビルは、いい風が吹くな〜って感じあります。両方に開いているというのは建物特性としては大きいし、利に叶っていると思うんですね。個人的にはこれを是非活かしたいな、と思ってました。
Q. >まさに、まちと会場が直接接続されてました!それでは、ヨルネルさんの会場も?
山岸. >元は小料理屋さんだった所ですね。ベースと天井をどうします?みたいな所をやったのですが、スタッフは一人しか付けられないと解っていたんです。だから、入り口は1箇所なんですけど、奥の方も見通しのきくガラス戸をそのまま使いました。欄間(らんま)がとても良いですよね。水の上マークみたいで。
Q. >あの欄間は元からあったんですよね。
山岸. >そうです。あの欄間の水紋みたいな模様に途中までは気づいてなくて、磨りガラスだったところを透明ガラスにした時に「はっ!!」となったんです。あの場所自体がとても素敵ですよね。両側がちゃんとファサードになってて昔の小料理屋さんのままの雰囲気があって。作家もそれを気に入って活かしたいと。水上ビルの中で、4階まで全体が使えるラウラのところと、ここを貸していただけたというのはとても良かったなと思ってます。

開発ビルについて

山岸. >開発ビルは10階建てで大きなフロアを持っていますが、階や部屋によってプランも内装も異なり、かなり印象が違うという特徴がありました。迷宮に入り込んでしまったような感覚なんですね。動線を組むのが難しくもあるのですが、何とかその感じを活かし、次はどこだろう、何だろう?と思いながら移動するような経路をキュレーター・チームと検討しつつ作りました。
Q. >そうなんです!今度は何があるのだろう?というワクワク感が有り、とても楽しかったです。エレベーターで最初に最上階まで上がってくださいと言われて驚きましたしね。
山岸. >そうですね、そこは一番最初にアシスタント・キュレーターの加藤から提案があり、なるほど、と皆で納得し、そのまま最後までいきました。2つある共用階段を何階でどうスイッチしつつ動線として使うかなどは議論しましたが、赤と黄の塗装の階段など、思いの外お客さんが移動や建物自体を楽しんでくれたのも嬉しかったです。
Q. >順路のアナウンスがとても旨く出来てると感激しました。あのようなガイドは誰の担当になりますか?
山岸. >サインについては、公式デザイナーの永原康史が、デザインは勿論、設置方法や位置等方針を決定し、事務局のサイン担当の部署と共に関連各所と協議しつつ設置しています。ただ特に開発ビルは、作品内での順路やバリアフリー動線等も含めかなり難しいので、現場を把握している私の方で、細かな位置や内容等提案させてもらいました。

会期がはじまってからも迷っている方をお見かけしたらすぐ、サインを足したり、案内を丁寧にしてもらったりとか、スタッフ一同が、柔軟に対応してきたと思います。

Q. >順路だけでなく立ち入り禁止の張り紙なども、さりげなく貼られているのが良かったです。細かい気配りが、とても印象に残りました。このような既存のビルを使う場合、他にどんな出来事に遭遇したりするのでしょうか?
山岸. >開発ビルの場合は、広いフロアを分割している場所もあります。そんな時は、例えばスプリンクラーですね。新たな壁を建てる場合などは、ちゃんと作動するように区切らないといけない。既存の設置位置を全部測って図面にプロットし、間仕切可能かどうか検討します。難しい場合は壁高さを調整するなど、消防署にも事前相談しつつ進めます。照明の位置などにも連動するので、途中で何かが変更になるとやり直す箇所も多くなってしまいます。

会場作りと作品作り

あいちトリエンナーレは既存の建物を使い、まちなかで展開することを大きな軸のひとつとしています。そのため、美術館主体の美術展とは異なる展示シーンばかりと言えます。しかし、会場作りと作品作りは違いますよね。そんな線引きを探ります。
Q. >開発ビル9階の佐々木愛さん作品の大きな壁は、山岸さんの担当ですか?どんな風に進めるのでしょうか?
山岸. >そうです。幅14mの大きなもので直接作品の下地となるので、作家ともいろいろ相談し、仕上げに気をつかいました。クラック(ひび割れ)が入らないように大判の石膏ボードを使い、継ぎ目を減らしています。

一般的には、作家と相談しながら床・壁・天井を整え、それに照明や一部の家具的要素を準備するのがアーキテクトの仕事になります。会場内の動線なども検討を繰り返します。例えばこの作品のある開発ビルの9階は、エレベーターからの経路に数段の階段があったので、スロープを付けました。

Q. >ラウラ・リマさんの会場の寄せ木群というか、止まり木のようなオブジェは?
山岸. >あれは作品扱いなんですよ。ラウラのコンセプト・イメージを元に、制作を協力してくれる作家たちがベースをつくり、来日した作家本人が一緒に仕上げています。電気系統は私が担当しました。この建物は設計図を建築家である黒野さんから提供していただき助かりましたが、図面がない場合はひたすら実測します。古いビルの場合は図面があっても手描き図の青焼きだったり、CADデータはない事が多いですね。
青焼き=かつて主流だったコピーの種類。一般に湿式複写機による複製で、光の明暗が青色の濃淡として焼き付けられる。時を経ると鮮明さが失われる。
Q. >一番大変だった事は何でしょう?
山岸. >作家やキュレーター、建物所有者や施工業者との打合せ、見積、工事等々が、全ての会場で同時多発的に並行して進行することでしょうか。作品を作っている作家の隣の部屋で、材料の搬入が有ったり、工事をしてたり。今回ですと、9平米の小部屋から1200平米の場所まで、豊橋会場だけで全部で16箇所ありました。なかなか普通の建築の仕事では起こり得ないことで、そこが芸術祭の大変なところでもあり、面白いところでもあります。
Q. >確かにそうですね。コンパクトなエリアではあったけれど、建物やフロアの大きさなどはバリエーション有りましたよね。
山岸. >まちなかを散策しつつ建物を出たり入ったりしてアートをみられる会場と、ひとつの建物の内部なのだけれども、他のテナントなども入っている複雑な共用廊下や階段を移動し、探しながら観ていくような展示会場。それが近い距離にある事で、建物の内外の動線が等価になって、全てがひと続きの散策経路になってるように感じられる。その事が、とても印象的でした。
Q. >有難うございました。インタビューは終了。でもね、サプライズが有ります!スクロールし続けましょう!

模型でめぐるあいちトリエンナーレ2016豊橋会場!

[新しい建築の楽しさ2016]展 AGCスタジオにて開催

あいちトリエンナーレ2016の閉幕後である11月8日から、AGCスタジオ(東京・京橋)にて「新しい建築の楽しさ2016」という展示会が開催されました。この前期に山岸 綾さんの模型「あいちトリエンナーレ2016豊橋会場プロジェクト」が登場したのです。

※前期 2016年11月8日(火) ~12月27日(火)
※後期 2017年1月10日(火) ~3月4日(土)

豊橋会場が模型になると聞いて、血が騒ぎましたね。この眼でみたい!百聞一見!新幹線でぴゅっとお出かけしてみました!

おお、アクソメマップが立体になってます。感涙!
水上ビルだけでなく、はざまビルも開発ビルもPLATもちゃんと建ってます。山岸さんは豊橋会場について「駅も商店街も開発ビル内部の階段も、内外関係なく等価に、一筆書きで繋げてしまうのが、今回の豊橋会場の面白さ」と言ってました。

まず、解りやすいところをアップしてみましょう。赤いラインにご注目。開発ビルです。10階の石田尚志さんのお部屋は、受付を通り舞台上から作品を見て客席へ降りて行く仕掛けなのですが、そのまんま赤いラインが導いてくれてます。楽屋もこんな風にめぐって堪能しました。もはや懐かしい!そう、階段を下りて9Fの佐々木愛さんのお部屋へ行きましたし、あっちの階段を降りて8Fのニコラス・ガラニンさんから岡部昌生さんへ到達して・・・・再び作品をめぐる旅に出かけている気分!!

※模型全体は1/800ですが、会場となった部分のみ、わかりやすいように高さ方向だけ3倍に引き延ばして作られています。

このように、豊橋駅から赤いラインが描かれているのです。本当に一筆書きで繋がっている!会場間だけでなく、作品から作品へもだ。改めて感嘆してしまいました。さらに、プロモーションとして、コマ撮り+一部動画による14分でめぐる豊橋会場の映像が流れていました。思い入れと拘りがたっぷり詰まった素敵なプロモーションでした!

待って待って、もう一回あいちトリエンナーレ2016をやろうよ、この模型を使い「今、あなたはここにいるから、こんな風にめぐってはどうでしょう?」とガイドしたい!と思ってしまいましたね。心に残る想い出を有難う山岸さん!!


みずのうえビジターセンターの旗!!そして、ビルの下には牟呂用水が流れてます!

山岸 綾 Aya Yamagishi
あいちトリエンナーレ2016 アーキテクト
建築家。サイクル・アーキテクツ代表 / 大学非常勤講師/大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ2009にて「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」同2015「奴奈川キャンパス」(廃校プロジェクト・学校リノベーション)。瀬戸内国際芸術祭2013にて大島「青空水族館」(展示用改修)。あいちトリエンナーレ2013岡崎会場、2016には豊橋会場をアーキテクトとして担当。

2016年11月[interview:S.Hikosaka]

会期は終了しています。記録として掲載しています。





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