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あいちトリエンナーレ2016を記憶する Vol.1【対談】拝戸 雅彦さん、黒野 有一郎[前編]

それでは、前編のスタート!

第1回・2回のあいちトリエンナーレはキュレーターとして参加し、3回目となる今回はチーフ・キュレーターとして全体を切り盛りしてきた拝戸雅彦さんと、豊橋駅前大通地区まちなみデザイン会議(駅デザ)の事務局代表であり、大豊商店街理事長の黒野有一郎の対談を前後編でお届けします。

まずは豊橋会場について

黒野 >3回のトリエンナーレに関わってきて、豊橋の評価はどうでしょう?
拝戸 >名古屋から遠いので、豊橋に来ていただくためには見応えがありそうと思わせる展示をしなくちゃいけない。そんな風に非常にハードルの高い場所でした。
黒野 >逆に、観客を豊橋までうまく運べれば、距離的なところが解消されて、後は間にあたるエリアになる。
拝戸 >そうですね。見応えを作って、なおかつ、来て良かった、見て良かったと思わせないと、豊橋の印象にも影響するんじゃないかと思ってました。つまらないという印象を持たれてしまうとショックも大きくて、豊橋のみならずトリエンナーレ全体のイメージが悪くなってしまう。2013年の岡崎会場とは違う取り組みになる事を初めから意識していました。
黒野 >準備段階や、会場選び、アーティストをキュレーションするところで具体的に何か有りますか?
拝戸 >国際芸術祭なので条件として、海外の作家が半分、日本人の作家が半分。最低10組以上は入れたい。トリエンナーレを見に来る人に、豊橋をパスしよう、スキップしようと思わせないようにしたい。ある程度のボリュームは見せなくちゃいけないという思いが有りました。それは展示場所を探してくれてる人たちもプレッシャーに感じてくれていて、展示面積を確保しなくちゃいけないと、かなり動いてくれました。なおかつ、豊橋駅についてから1時間かかる場所という事は考えられないから、駅前で探さなければならなかった。そして、実際にそういう場所が確保できた。

駅前からすぐにPLATへ向かい、水上ビルを抜けて、狭間ビルから開発ビルへ向かうという非常に良い場所でまとめる事が出来た。場所探しは成功した。作家選びも成功した。結果も残せたというか、来た人に聞いてみても、岡崎も良かったけど、豊橋が良かったという評価が得られたかなと思ってます。

もうひとつ豊橋の特徴として、ブラジル人の居住者が多いと聞いていました。それで、ブラジル人のアーティストを豊橋で見せようと、現代美術ではリビジウンガ・カルドーゾ(別名:レアンドロ・ネレフ)とラウラ・リマをもってきました。パフォーマンスでは、ダニ・リマの公演をPLATで行いました。彼らを入れた事によって、かなり特徴が出せたかなと思ってます。

黒野 >実際にブラジル人コミュニティーに対して、展示や公演の反響はどうでしょう。
拝戸 >ダニ・リマの公演をPLATでやった時にはかなりブラジルの方々が集まってくれたので、その分では成功したかなという気はします。
黒野 >認知はしっかりされたという感触ですか?
拝戸 >そうですね。ただラウラ・リマの展示にブラジル人が多く来たかというと、そういう感じは無かった。美術に関しての浸透力までは無かったかなと。
黒野 >ちょっとパフォーマンス系で話が飛びますが、アニマル・レリジョンについて。なんでスペインから来た彼らがこの豊橋で公演を行ったのでしょう?
拝戸 >アニマル・レリジョンのコンセプトの中に野生や、動物が有り、場所を探していました。それで豊橋公園がいいんじゃないかと。あそこは動物園だった時期があったし、軍の兵舎もあったので馬がいただろうと。どこかの原っぱでやるようなものではなく、歴史的な謂われのある所でやるべきと思ってました。それもあってアニマル・レリジョンは豊橋だろうと。
黒野 >評判は良かったですよね。ツイッターの書き込みも凄かった。
拝戸 >うまくはまったかなと思ってます。忘れてはならないのが豊橋市公会堂での、同日のアローラ & カルサディーラのパフォーマンス。アニマル・レリジョンとはまったく対照的な静かなパフォーマンスなんだけど、動きのあるものと、とても静かなものがあの3日間だけ、あの周辺で体験できるというのはとても良かったかなと。

PLATという新しい劇場があり、公会堂という近代的な劇場があり、開発ビルの10階に市民劇場的なスペースがあった。やっぱり劇場都市なんですね豊橋は。それが3つとも使えた。美術では、新しい体験を提供する事が重要ですが、面白い場所が必要なんですよ。そういう意味で面白い体験を複合的に提供出来たかなと思っています。

豊橋には時間の層、歴史の層があるんですよ。水上ビルもそうだし、開発ビルは少し新しくなってるし、PLATはとても新しい。段階的な歴史の層が、よく見える場所。そういう所で展示が出来たという事で豊橋の街の面白さも時間差で見えてきた。これは豊橋でなければ出来ない。

黒野 >そうですね。西田キュレーターさんからは豊橋は昭和っぽい街と言われたけど、近代っぽいんですよ。豊橋は一度焼けてしまったから歴史はないと思ってるけど、70年なり80年というか100年以内くらいの歴史はあると。劇場都市と言われたけれど、あまり僕らは意識していなかった。逆に外からつついて貰えた所かと。なるほどなと思いました。
拝戸 >豊橋公園の周辺は、重厚な場所だし、歴史の層がすごく綺麗に残ってる場所だなという印象があって、それを上手に活かしたいと云うのが我々キュレーターチームの発想でした。それがどこまで豊橋の皆さんに意図が伝わったか解らないけれど。
黒野 >後からでもこういう話をするのは重要で、なるほどと思ったり、そうする事によってそういえばこんな場所も有ったと気づく事もありますね。
拝戸 >あとね、豊橋ってインターナショナルなんですよ。市内にはロシア正教の教会もあるし、週末になれば駅前にブラジル人の方が多く集まっているし。フィリピンの方もいるし、アジア系もいる。街の規模に対してインターナショナルな雰囲気を持っている都市かなと思ったんですよ。名古屋は大都市ですが、住んでいる外国人たちの姿がはっきり見えないんですよ。

駅を降りて駅前大通に居るとアジア的な喧騒感というか、週末になると外国人が沢山いて、高校生も沢山いて、わりと名古屋では見られない活性というか、元気なところが面白かったです。でもちょっと水上ビルの方にくると、静かで、面白い通好みの店が沢山あって、みたいな。時間の層、歴史の層みたいなものが見える。15分か20分歩いて美術博物館の方へ行くと近代なんだけど、駅前は現代だし、水上ビルには昭和が残ってる。街としてとても面白いんです。そういう面白さをアートを通して見せることで、その背景や雰囲気を感じてくれたらとても嬉しい。それは見せられたんじゃないかなと思ってます。

名古屋、岡崎、豊橋とそれぞれの都市に特徴があって、それがトリエンナーレという枠の中で見せる事ができたというのは全体としては成功かなと思ってます。豊橋会場の限定チケットを沢山の地元の方が買って、見てくれた。近所で展覧会が楽しまれていた。良いスタートだったかなと思ってます。

アートと商店街

黒野 >豊橋会場の仕組みの中で、ここはもう少し出来たんじゃないかと思うところはありますか?
例えば、作家と商店街の関係ですね。僕がいけないのかもしれないけど、もう少し商店街の人たちと作家が近い関係を築けたらなと。長者町ほど時間をかけてないとも云えるんだけど、キュレーターの加藤君や水谷さんが頑張ってくれてたけど、商店街のみんなが彼らの顔を覚えてくれたところまではいってないと思う。

さらに、通りを隔てるとトリエンナーレって何?という人もいたりする。次回に向けて、例えばまた加藤君が来て「ああ、君か!」と言われるくらいの関係が築けてたら、話はスムーズかなと思う。

こうやって、あとの記録を残すこと、市役所の文化課にも言ったのですが、数字なり成果なり、ある程度評価したものをまとめるべきと思う。でないと次に開発ビルなくなりますという事になった時、別の商店街にアートですといきなりもって行っても難しい。次回に向けての浸透は、少し足りない部分があったかなと思う。

拝戸 >レジデンスかな。アニマル・レリジョンも結構ここに滞在してたんだけど、ラウラも含めてここで作ってる、活動してる事がもう少し長い期間見えてると良かったかなと思いますね。
黒野 >そうですね。少し勿体なかったかなと思います。それが出来ていれば、もっと面白く協力できたのかもしれない。
拝戸 >それが出来てたのが、2010年の時の長者町でした。ただ長者町の場合は、1年前のプレイベントから作家に来てもらっていました。KOSUGE 1-16というアーティストが特徴的なんだけども、前の年は小さいものを一生懸命作って、そこからはじまって本番ではもっと大きなものを作ったみたいな形で、街の中に溶け込んでた。子供を連れて家族で来ていたから特に。豊橋でも、そういう家庭的な風景が見られると、アーティストに対して親しみがわくし、サポートしてあげようとなってたかも。
黒野 >短い間だったけどラウラさんは家族で来てて、子どもさんがオープニングパーティーの準備を手伝ってくれた。そうすると近所の子供たちも一緒になってわいわいやってる。だからそういう活動の部分は、僕ら自身もやらなきゃいけなかったし、もっとやれば良かったのにという反省点はあります。

見えない内に終わってしまった感じ。海外から来るアーティストがどういうタイミングで来て、どういう風に制作するとか解らない。あまりにもガチンコで来てて、キュレーターさんもそんな余裕ないよなというか、いっぱいいっぱいだっただろうという気はしてた。

別の係の人がいるとサポートできたかもしれないし、そもそも前提としてそういう活動をすれば良かったのかと思う。ワークショップは半年くらいやってたワケだから、そういう流れでもう少し活動があると良かったかもしれない。

拝戸 >アーティストと街の人をつなぐコーディネーターみたいな人がいても良かったんだな。私の方の反省でもありますね。
黒野 >アーティストにとってはこの豊橋の立地というか、展示場所というのはどうだったんでしょうか?
拝戸 >展示場所としては、とても気に入ってました。コミュニティとうまく絡み合えてたかというと、それはなくて、制作に来ただけという。
黒野 >岡部さんは比較的街に出てきてましたけど。狭間ビルのレアンドロとか。
拝戸 >そうだね、もっと接点があると良かったね。
黒野 >それが結構街の人にとっては楽しみになるような気がする。

後編に続きます。引き続きお楽しみください!

拝戸 雅彦 Masahiko Haito
あいちトリエンナーレ2016 チーフキュレーター
愛知県県民生活部文化芸術課芸術祭推進室主任主査。
1991年名古屋大学文学研究科博士課程後期美学美術史専攻中退。1992年10月から2008年3月まで愛知県美術館の学芸員として勤務。美術館で開催された現代美術展に関わる。愛知県が「あいちトリエンナーレ」の事業を立ち上げた2008年から現在の芸術推進室に異動。「あいちトリエンナーレ」の第1回、第2回(2010、2013)にキュレーター、第3回(2016)はチーフ・キュレーターとして関わる。
黒野 有一郎 Yuichiro Kurono
トリエンナーレ部会
建築家/sebone実行委員長
1967年愛知県豊橋市生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、野沢正光建築工房を経て、2004年一級建築士事務所建築クロノを設立。同年より始まった都市型アートイベント「sebone」に参加。現在、水上ビルの商店街理事長を務めるほか、駅前デザイン会議「トリエンナーレとよはし部会」を主導するなど、自治体・行政と連携した「アートによるまちづくり」を展開している。
2016年12月[text:S.Hikosaka]

会期は終了しています。記録として掲載しています。




あいちトリエンナーレ2016


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